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アレックス・ヘイリーは、1921年ニューヨーク州生まれ。沿岸警備隊に長く勤務した後作家の道に入った。『マルカムX自伝』などの著書で知られるが、代表作は何と言ってもこの『ルーツ』である。
言うまでもなく、ヘイリーはアフリカ系の黒人である。18世紀の終わり、彼の曽曽曽曽祖父クンタ・キンテはガンビアで白人に捕らえられ、背中に焼印を捺された奴隷としてアメリカ大陸の土を踏む。独立戦争、南北戦争、そして奴隷解放宣言。アメリカが移り変わってゆく中、クンタ・キンテの子孫たちは、アメリカの黒人としての境遇を生き抜いてゆく。彼らがたどってゆく過酷な運命は、まさに正史には載せられていないアメリカの暗黒の裏面史そのものである。しかしそんな中、クンタ・キンテの子孫たちは、代がいかに進もうとも、親から子へと、アフリカからアメリカへやって来たクンタ・キンテのことを語り継ぐのを忘れないのだ。
物語は時系列に沿って淡々と進む。下巻の終わりに近くなってついにヘイリー本人が登場する。彼もまた、一族の老人たちから先祖のことを聞かされて育っている。そのほとんど暗号化した昔話を手がかりに、ヘイリーは自らのルーツを探り、ついにクンタ・キンテの生まれた村にまで辿り着く。そこで彼はクンタ・キンテの母語マンディンカ語で"グリオット"と呼ばれる、過去に関する膨大な知識を有する語り部の老人に出会う。その部分の描写はまさに圧倒的で、全身に鳥肌が立つような凄まじいものである。この本をこれから読もうとする人がいたら、絶対に最後まで読んで欲しい。ヘイリー本人が登場する場面、そして著者のメッセージが深く込められた最後の一文まで読まなければ、この本を読む意味は半減してしまう。
1976年の発表と同時にこの本は一大センセーションを巻き起こしたのだが、まさにこの本は一種の魔法のような本である。あたかも、ヘイリーの先祖たち、そしてアフリカからアメリカに拉致されてきた全ての黒人奴隷の意志によって紡ぎ出されたかのような感さえ受けてしまう。本文中にあるように、先祖のことを語り継いできたクンタ・キンテの子孫たちもやはりグリオットであったと言えよう。そして誰よりも、1992年にこの世を去ったアレックス・ヘイリー本人こそは、この本を書くことでアメリカ人の、いや、世界中の人々のためのグリオット、語り部となったのだ。

〔2000-11-06/
TAK〕